2023年10月11日水曜日

出展作品/坂井優斗

2023 October Exhibition 《Progress》

Tabinosoraya Presents / Feat.長岡造形大学学生・大学院生8名の展覧会

10/6 fri.-15 sun
▶Open   11:00-17:00 ▶Last day 11:00-16:00 ▶Closed  10/11wed.

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坂井優斗さんの出展作品を、ご本人のキャプションテキストと共にご紹介します。
略歴とお客様へのメッセージは、出展者紹介のページをご参照ください⇒ 

坂井さんの作品は、いずれも販売しています。








坂井優斗 / SAKAI Yuto





Yabun/Kōryō

2022

Archival pigment print

Paper size : 72×95mm, Frame size : 523×408mm


親しい間柄にある人物や見慣れた風景とのあいだには、いつも微かに触れがたさや距離が潜んでいる。決して触れ合うことのできない隔たりを前にしたとき、私は手の届く対象との境界にわざわざカメラという障害物を持ち込む。目の前に確かに在りながらも到底知ることのできないもの、決して手に入れることのできないもの。それらに迫ろうとするとき、そこに写真が生まれる。








カメラのレンズは、裸眼では見えないものもみせてくれるものだと、
宇宙さえも、近くに引き寄せてくれるものだと、思っていました。


触れうるものであっても、尚、遠い、、、
そのことに、気づかされる作品です。


過去を鮮明に記録し、残す写真ではなく

おぼろげになった記憶を辿るような

雪の日の昔語りが聞こえてくるような


Yabun/Kōryō








The Lost Towers  /《無用の彫刻》

2023

Gelatin silver print on fiber base paper

Paper size : 279×356mm, Frame size : 527×412mm


『アーティストの最新作展 ( 長岡造形大学、2023 )』で発表された本作は、Bernd &

Hilla Becher ( 以下、ベッヒャー夫妻 ) の名作『Water Towers』を参照し、感染症対策用のアルコールディスペンサーを撮影した写真・彫刻作品である。

ある日『Water Towers』中に登場する給水塔と感染症対策用のアルコールディスペンサーの造形が類似していることを発見した坂井は、パンデミックの収束によりフリマサイトやネットオークションの底値で取引されるようになったアルコールディスペンサーの蒐集を開始した。坂井はそれらをベッヒャー夫妻さながらにアナログの大型カメラで撮影し「無用の彫刻」として捉え直すことで、私たちの生きた劇的な時代を語ることを試みる。『アーティストの最新作展』における坂井のねらいは、現代的なモチーフの転用による焼き増しや形式的なタイポロジーの模倣に留まらない。現代までのあまたの文脈を編み込みながらも、ベッヒャー夫妻の一連のシリーズで一貫されていた、象徴的な遺物を彫刻と名付け再解釈を行うことで対象を通して時代を俯瞰するようなまなざしを重ね合わせている。

*Bernd & Hilla Becher

デュッセルドルフ美術アカデミー在学中に出会ったふたりは、1959 年から給水塔、溶鉱炉、鉱山の発掘塔など、近代産業の名残が残る戦前の建築物を共に撮影するようになる。それらは作中で「無名の彫刻」と呼ばれ、夫妻は 1990 年ヴェネツィア・ビエンナーレにて彫刻部門で最高賞を受賞している。ベッヒャー作品の特徴は、「タイポロジー ( 類型学 )」と呼ばれる共通する類型によって収集されたイメージ群を提示する方法にある。ミニマリズム的な反復は、記号化されたイメージ相互の差異を逆説的に抽出し、鑑賞者に過去を内在した現在を鋭く指し示す。夫妻の作品はコンセプチュアル・アートの文脈で見出され、現在でも非常に高い評価を受けている。また、デュッセルドルフ美術アカデミーで教師としても才能を発揮したふたりは、アンドレアス・グルスキー、トーマス・シュトルート、トーマス・ルフ、カンディダ・ヘファーなど、

「ベッヒャー派」と呼ばれ現代美術のフィールドで活躍する世界的なアーティストを多数排出した。










作家紹介のページに掲載したこちらの画像は ↑ 夏休み前に大学内で発表展示された坂井さんの作品です。


「アーティストの最新作」という課題でベッヒャー夫妻を取り上げ、コロナ禍の収束とともに「無用」となったアルコールディスペンサーを被写体に、「タイポロジー」の手法になぞらえて構成した ”うつくしき” 写真・彫刻作品。


その ”うつくしさ” を追求した撮り方について、教授陣から核心を突く指摘があったことを受けて、全てを撮り直し、再構成したものを今回、出展してくださいました。


The Lost Towers  /
《無用の彫刻》↓(右側 9枚)








次回に生かす、というのでなく、即座に同じ被写体で再度取り組む、という点が素晴らしいと思いました。
まさに《Progress》。

学内展示作の ”ベッヒャー夫妻的” でなかった部分が一目瞭然です。



ベッヒャー夫妻の「給水塔」を想起させるアルコールディスペンサーに着目した感性も素敵ですが、単なる「遺物」の造形コレクションではなく、今、生きる時代を照らしていることが重要であり、そのことこそが ”ベッヒャー夫妻的” で、

坂井さんが撮り直した部分は、そうしたことを静かに語り掛けるために、不可欠なポイントであったことがわかります。


前作品があったからこそ、体感できたことです。
一連の作品を見せていただき、直接お話を伺えたのは、とても貴重なことでした。


そうしたことを踏まえて、
改めて目の前の、作品世界を味わうことのできるうれしさ。








Fleeting Light 2L print

左端下段に写っている「Publication Year:2023」から抜粋して2L版にプリントしたもの。
作品証明付きで展示販売しています。

以下、作品「Publication Year:2023」についてInstagramの記載より

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本作は坂井が日ごろ携帯する手製のポートフォリオを元に制作された。
近年美術的なアプローチによる制作を試みる坂井にとって、日常的に撮影される膨大なスナップ写真は行き場を失った存在であった。そのような背景から制作に伴い生じたテストプリントは束ねて携帯され、ほとんどが出会う人々へ名刺や土産として手渡されていくこととなる。そのポートフォリオを模倣した本書には、ラボから返送されるフィルム1本分のサービス判プリントをイメージした36枚の写真が綴じられ、幻となった初の私家版写真集と同様のタイトルがつけられている。

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つかの間の ひかり







【会期後半の出展者在廊予定】

10/12   長井
10/14   坂井・佐川
10/15   江濵・小林・佐川・坂井・長井・堀内


最終日は賑わい過ぎな予感(;'∀')

ゆっくりとご覧になりたい方には、最終日以外
のご来訪をお勧めいたします。
15(日)は 16時にて閉幕です。