2024年7月19日金曜日

加納いずみ/時の可視化

三者三様の作品の魅力を、愉しんでいただいている《三人展 中庭》。

ギャラリーに入ってすぐに対面する加納いずみさんの作品は、

ほぉ、、、と立ち止まって眺めるやいなや、禅問答が始まるような作品です。




いずみさんの出展作品は、「インスタレーション」(ざっくりと空間展示)と表記されていますが、
コンセプチュアル・アート※(概念芸術)寄りの志向で制作しておられます。

素材を用いて芸術作品を作るという技術面より、作品製作の背景にある発想や思想に重きを置く芸術





右)《芥子却》(けしこう) 1/20000バージョン

 左)《盤石却》(ばんじゃくこう) 短縮バージョン







仏教用語で永い時を表わす「却」(コウ)という時間の単位についての二つのたとえ話を、
縮小・短縮して表わしたふたつの作品。


作品解説は語り過ぎないことに苦心するとのことですが、
その絶妙なボリュームと、わかりやすさに関心します。


難しい話になりがちなところも軽やかに縮尺して示し、
私たちはコンセプトについての共通認識の土台を得た上で、

それでも残る謎に思いを巡らせ、作品と、居合わせたひととの語らいに
向かうことができます。






《 芥子却 》 1/20000バージョン

芥子の実、木箱、ピンセット








《盤石却》 短縮バージョン

モーター、布、石  ほか




真面目さと、ユーモアと、シュールな可笑しさと、うつくしさ、

河原の石や芥子粒など、きわめて再現性の低い自然の素材をメインに用い、
そこここに作家の生の手仕事の痕跡が残されているにもかかわらず、

実は「もの派」が好きで、レディメイド(既製品を用いたアートの文脈)に憧れているという、

相反するようにも感じられる要素が、絶妙な配分で散りばめられた作品世界。





《観ることについて》

額縁写真、石 ほか






作家の自問につられて鑑賞者も自問する作品。


「作品を鑑賞するとき、私が見ているのは作品なのか、写真の表面なのか、キャプションから得る作品情報やコンセプトなのか、作品から早期される個人的な思い出との結びつきなのか、、、」


私は、作品になるまでの過程を見ようとして(知りたいと思って)いることが多いようで、

この作品でもっともハッとしたのは、作家が注いだ時間、を「見た」と感じた瞬間です。


額装された写真部分は、デジタルを扱う作家であれば居ながらにして、たちまちに作れると思われますが、本作は、

石を用いた過去の作品⇒を記録した写真⇒を額装して撮影⇒したのを現像に出して⇒
また額装して撮影⇒したのを現像に出して、、、と


「却」ほどの時間ではないにせよ、作家が実直に手を動かし、足を運び、
形にしていくために、注がれた時間のあることを、

作者以外の方々との語らいの中で(つまり作者が解説しないところで)
見えたように感じた瞬間に、ひとつの感慨がありました。


《芥子却》や《盤石却》、次でご紹介する《人生カレンダー》は
ストレートに時間を可視化することを目的とした作品であることに対し、
《観ることについて》は作家にとっては異なるスタンスの作品であるようなのですが、


図らずも、時間の経過、時の流れといった、目に見えないものをみせることが、
共通の伏線になっているのが、いずみさんの作品世界なのではないかと感じたり、、、


鑑賞者は往々にして、作者の意図せぬところをみているかもしれない、
という一例の報告のような所感になりました。





《人生カレンダー》

紙、ほか






《 三人展 中庭 》

2024.7.9 tue ~21 sun
Open   11:00~17:00 ※最終日は16:00まで
Closed 12 fri, 17 wed

🌻加納いずみ(インスタレーション) 在廊:7/13、18、21(各日午後)
🌻高畑杏子(写真) 
7/11、14(13:30~)20、21(13:00~)
🌻手塚千晴(木彫) 7/10(11:00~14:00)、14(13:00~)、21(11:00~)

🌿「中庭」のInstagram@ nakaniwa.awa